建築家と建てる家 建築家との家づくり > 空間を設計する > CASE06
無駄なものは省いて、常識にとらわれない家がいい。
敷地全部を使ってほしい。
最初にそんなことを伝えたように思います。
それが、こんなとんでもない家ができる始まりになろうとは(笑)。
だって、家ができて初めの2,3ヶ月、宅配のお兄さんたちから
『お宅が見つからないんですけど・・』
という電話が何度かかってきたことか・・
ー クライアント
僕は、大学時代に学んだ建築についての考え方を 一貫して変えることなく今に来ています。
それを難しい言葉で言えば「現象学的空間」となりますが、簡単に言えば「建築の要とは、外観/内観デザインに凝ることでなく、その空間のなかで住まい手がどうその“空気の雰囲気”を感じ取るか」というシンプルなことに過ぎません。
これを、「空気の設計」と言うこともできると僕は思っています。
このプロジェクト:Device#9では、こうした考えを最も純粋な方法で形にしたいと思いました。
ー 前田
京都の龍安寺の石庭は、いたって簡素で「カラッポ」な作りですが、様々なものを、鏡のように「映し出す」ことができます。
晴の日、曇りの日、夕焼けや星空、雨や雪、夏と冬、更には、そこにいる自分の「心」も映し出してくれます。
そして、その時々で驚く程、その姿を変えてくれる庭なのです。
「カラッポ」であるが故に・・・・。
ー 前田
この住宅は僕達の考える最も純粋な建築のひとつです。
まず敷地条件から許される限り最大の「カラッポの箱」(敷地境界線から50cm離したもの)を用意することから始まります。
これは「自分の家として、敷地全体を見渡せる広さ(=開放感)を感じることができる」という理由によります。
しかしこのままだと建坪率は約【90%】となってしまい、敷地の法定建坪率【50%】をオーバーしてしまいます。
よって、その【40%】余計な部分を【建物でない場所】にすれば、法規には適合することになります。
このプロジェクトでは、この【40%】分をGARDENにしてみたのが特徴です。
GARDENは建物ではありませんから、建坪率には入りません。
どうせ【40%】を削らなければならないのであれば、それを逆手に取ってGARDENという魅力あるスペースとして生かしてしまえばいい訳です。
一丁の豆腐から、包丁で「4箇所のブロック」(GARDEN)をくり抜いたみたいに。
住まいの空間を豊かにするひとつの手法として、
「大きなもの」をひとつでなく「小さなもの」を沢山
というメソッドがあります。
ここではそれをGARDENに使ってみました。
「大きな中庭がドーンとひとつあるより、小さな中庭が所々に沢山散在している」というイメージです。
そうすると、室内に居ながらにして、前にも/後にも/左にも/右にもGARDENが顔を出してくれるようになります。
住宅の「内部」にいた筈なのに、あそこにもここにも 沢山の豊かな「外部」がチョロチョロと顔を出してくるのです。
このプロジェクトで、小ぶりなGARDENが色々な場所に散りばめられているは、そんな理由に依るのです。
上の手順で欠き込まれた4つのGARDENは、いずれも隣家に向かって開いていますから、このままだとストレートに隣の家の窓や屋外機・給湯器等を見なければならなくなってしまいます。
私たちは、そんな“プライバシー”や“見たくない物”を遠ざける工夫として、4つのGARDENを半透明のテントで囲ってみました。
これによって、隣家との視線は遮りながらも明るさを適度に確保できるようになりました。
次は、GARDENの内部をどうしつらえるかが課題となります。
採用された案は、GARDENと室内の間仕切り壁をすべて透明ガラスにしてしまうことでした。
それは、4つのGARDENの中すべてが透明に一望できるからです。
室内とGARDENが視覚的にすべて連続して一体になることで、住まいが実際以上の広さ感覚を持ち始めます。
そしていまひとつ、間仕切り壁が透明ガラスになることで、室内と4つのGARDENの境目が消滅してゆきます。
室内に居ても外に居るみたいで、外に居ても室内にいるような感覚、これこそが、この建築の空気に他では味わえないダイナミックな魅力を与えてくれることになります。
室内に居ても、雨や空や月がとても近く感じられるということです。
CGを見て大混乱し、模型を見てひっくり返りました。
それくらい驚きました。
平屋?
外にすべて閉じる?
家の中にガラスの庭?
何もかもが、待ち続けた僕らのちっぽけな予想をはるかに凌駕するサプライズの連続でした。
いいのか/悪いのか、好きか/嫌いか、そんな原始的な判断すらできないくらい、いっとき、頭が停止してしまったようでした。
「もーいーくつ寝るとー」みたいな日を毎日毎日繰り返してようやくやってきたプレゼンの日。
前田アトリエと出会い、竣工するまでの長い時間の中でダントツで記憶に残っているのがこの日です。
ようやく興奮が冷めた頃、僕らはこのファーストプランを何としても実現したいと思いました。
それから1年半、前田アトリエとの家づくりを通して、僕ら夫婦は、さらけ出し、ぶっちゃけ、それまでの10年で気づかなかったお互いの本性をたくさん目にすることになりました(笑)。
ー クライアント
GARDEN床の素材は、鏡面仕上げ(鏡みたいに反射します)のステンレス板になっています。
これは、空や雲や月や夕焼けが、GARDENの「床面」に映り込むであろうことを期待しています。
人間というのは、上より下の方向を見る習性があります。
鏡面仕上げの床は、上(空)にある自然(空・雲・月・夕焼け)たちを、日常生活で頻繁に感じる下(床)にまでデリバリーしてくれる効果を持ちます。
また、GARDENに植えられた植物たちがユラユラしている風景を目にすると、外で柔らかい風が吹いていることも感じるかもしれません。
風を目で感じるということです。
雨の晩に車に乗っていることを想像してみてください。
フロントガラスをつたう雨粒には、街のネオンやヘッドライトが映り込み、幻想的な風景が演出されます。
Device#9の大きなガラス面が敢えて斜めにされているのはお洒落だからでもデザインした訳でもなく、その幻想的な空気の感触を生活の中に浸入させたかったからです。
前田アトリエとの家づくりを通して一番感じたことは、僕らがいかにつまらない『入れ知恵』に縛られた考えにもとづいて生活してきたか、ということでした。
住宅には住宅の建材や部材があると勝手に思い込み、家には玄関が必要だと決めつけ、家は「中」で「外」ではないとあたり前のように考えています。
でも、「中」の中に「外」があってはいけないと、誰が言ったんでしょうか。
家の中に、「外」があってもぜんぜん問題ないし、そんなつまらない常識という箍(たが)が外れた時、僕らの目の前に、決して小さくない『感動』が生まれることを知ったのは、この家に住んだからです。
ー クライアント
※音が流れますので、音量にご注意ください。
中と外が幾重にも連なる空間を、目が串刺しにしてしまうようなレイアウトが、僕の中にいまだに居座る常識と衝突し、脳内に小さいトラブルを引き起こしますが、案外それが心地いいんです。
ー クライアント
一見シンプルに見えるこの箱の中には、これだけの装置(Device)が用意周到に準備されています。
「カラッポ」の箱の中にひとたび足を踏み入れると、そこは全く違った風景が広がっています。
一番先に書いた、
「建築の要とは、外観/内観デザインに凝ることでなくその空間のなかで住まい手がどうその“空気の雰囲気”を感じ取るか」
DEVICE#9ではこのことの意味が、できる限りシンプルに実現されているのだと思います。
ー 前田
竣工した家を味わいながら暮らす長い長い時間と、竣工までのエキサイティングな色褪せない時間が、ともに僕らの中にあります。
それは、言葉に置き換えることが悩ましいくらいに幸せなことなんです。
他の施主の方々は、たぶん僕とは異なる言葉で、彼らの大切な時間について語っていると思います。
それは前田アトリエとともに家を建てた人にとっての共通言語として彼らともこの感動を共有しているんじゃないかと思うんです。
12年が経過した今も思います。
暗くした家の真ん中でぼーっと酒を飲みながら、DEVICE#9は時間をかけて、一層、DEVICE#9らしくなっていくんだろうと。
ただ、家ができるまでの、あのエキサイティングな時間をもう1度過ごしてみたいと思うのも事実なわけで(笑)。
前田アトリエとの家づくりは、『最高の大人の遊び』ですから。
ー クライアント
今回の住宅では、まず敷地条件から許される限りの最大の「カラッポ」の箱を用意します。
ですから、外観も殆ど無愛想な倉庫のようなイメージです。
そこにデザインらしいデザインはありませんね。
ただ、そのカラッポ」の箱の中にひとたび足を踏み入れると、そこは全くの違った風景が広がっています。
それを保証してくれているのが、これまた「カラッポ」の4つの庭なのです。
ここでは、ただひとつの間仕切り壁もなく、ただガラーンとした「空気」だけがあります。
ただ、その「空気」が目には見えずとも、竜安寺の庭のように変化に富んだ色や臭い、音、感触を住まい手に感じさせてくれます。
建築は「物」をデザインするのではなく、「空気」の質をコントロールすることなのです。
谷口さんのお宅は敷地58坪に建つ平屋の建物です。
この建物は既成概念にとらわれず、オリジナリティーに溢れています。
基本的にワンルームとなっており、ご夫婦にとって大変生活しやすい設計となっています。
私もしばらくの間ですが、とても居心地良く過ごさせて頂きました。
私は全体を見て、このモダンデザインは紛れも無く、建築家・前田紀貞さんの作品だと実感致しました。
※音が流れますので、音量にご注意ください。
INAX(現LIXIL)「SUITEROOM」のコンセプトイメージにDEVICE#9が採用されました。
家を設計するとは「形をデザインする」のではなく「空気を計画」することだと思います。
それは、魚が濁った水では生きられないように、人も濁った空気ではうまく生きられないのと同じことだと考えるからです。
もしも、あなたが、こうした家の建て方にご興味を持たれたならぜひご連絡ください。
そしてアトリエに遊びに来てください。
歓迎します。