建築家と建てる家 建築家との家づくり > 空間を設計する > CASE05
住居は、吹き抜けで、太陽の光がよく入るお家にしたい。
生活感が感じられたら、店舗のイメージが下がると思ったので、外からは見えないようにしたい。
外観は、とにかく目立って、道を歩いていても足が止まるような、言わば建物自体が宣伝塔になるようにしてほしかったんです。
こうした要望を叶えてくれるのは、建築家でないと不可能だと思いました。
ー クライアント
クライアントからは、
「1階のペットショップ以外はできるだけ外には開かないような囲われた空間として、しかし中に居て外を感じられるように」
というような依頼を受けました。
そこから、有機生命体の細胞分裂の法則が
「中の中は外」
であることを連想しました。
ー 前田
私達の場合は建築家の家を見慣れてなかったので、免疫力がないというか、どれを見てもすぐに感動しないよう目を慣らすために、とにかく最初はありとあらゆるキーワードでホームページを検索して、もうこれ以上見たらお腹いっぱいというくらい、色々な建築家の作品を見ました。
でも、果たして思い通りの家が建つのかという不安も持っていました。
ー クライアント
つまり、都市から一旦、敷地を囲い込むパンチング板の中に入り「中」となります。
更に、そのパンチング板の「中」にある四角いキューブに入ります。
これが「中の中」です。
通常は「中の中」は「とても中」なのですが、それが「外」に反転するようなしつらえを考えました。
都市空間からどんどんプライベートな住空間という「内部」へ入っていくにつれて、最後に顔を出すのが都市(空)であること。
そういう逆説の中に、毎日の生活を豊かに演出してくれる方法があると考えました。
ー 前田
【TORUS】は上部と下部を分節した
2層構造になっています。
上部(2階、3階)=住居部分
下部(1階)=店舗部分
1階はアルミ有孔板で柔らかく囲われた領域として、ペットショップが入ります。
街を通りがかる人からその内部(店舗)の様子が風通しよく観察されることが望まれると同時に、有孔板の曲面壁で囲われた「ショップ」以外は「ドッグラン」として解放されており、これによって敷地全体をワンちゃんたちが自由に走り回れるようなしつらえになっています。
ちなみに、「1階の曲面壁のライン」を決定している理由は、都市に対して敷地が要求する「ウエルカムゾーン」です。
駐車場の為(の欠き込み)、エントランスの為(の欠き込み)、空調機置き場の為(の欠き込み)、、、、というように、「外に向かって開かれることを要求された場所」が赤の欠き込みゾーンとなり、
結果、1階の不整形なアルミ有孔板の壁ラインを作り出します。
上部2・3階(住宅・家)の設計は、1階の軽快感とは対照的に重量感あるマッシブな塊として、インドア派のクライアントを守る為の重装備をした戦車のような顔付きで宙に浮いています。
この壁面素材はフラットな工業製品のそれではなく、手作りの焼き物のような風情を持っています。
壁面防水材を何層にも塗布した後、それが乾燥に至る前に即座にゴムベラで丹念に粗野に引き延ばしてゆく、という手法による風合いが選択されました。
また「近景のテクスチャー」だけでなく「遠景のテクスチャー」への配慮も成されています。
それは、
「空模様を壁面に映す」
という方法です。
上の写真(PHASE:01)が、上棟日に撮影された敷地上部の「空模様」です。
下の写真(PHASE:02)は、その画像の「黒~白のグラデーション」を「等高線図」に置き換えたものですが、この等高線図を実際に工事中の東西南北4面の壁面に墨を出してゆきました。
その後それに従って「モルタルの塗り厚」(0mm~30mm)を厚みで塗り分けてゆき、自然から引用した「空模様のテクスチャー」を創り出したのです。
全体の印象としては、右の写真のようになります。
あたかも、うっすらと雲がたなびいているような顔付きです。
この手法によれば、通常の工業製品でやると“エッジが立ってしまう壁面のコーナー”も、粘土をこねたようにヨレヨレの線を実現できるようになります。
こんなエッジを持つように設計された建築は、そうはないでしょう。
結果、このマッシブな塊が都市の中に浮く様は、空と同化してゆきます。
自然の空ときっちりと分けられた建築があるのではなく、空に馴染むように輪郭がボカされてゆきます。
【TORUS】は、晴天よりも曇り空が似合うとすら思えてきます。
さて、次は2・3階の住宅(家)部分のマッシブな箱の内部です。
あれだけ、都市に対して閉鎖的であった塊の内部へ徐々に入ってゆきます。
最初に待ち受けるのがエントランスです。
ここは、外気や雨が吹き込む場所ではありますが、内部っぽい雰囲気もあります。
ここからいっきに「中の中」である、住宅(家)の塊の中(室内)へ入ります。
これぞ、【TORUS】というドーナツ状空間(内部が空洞)の空気です。
外観からは極度に閉鎖的な筈なのに、一旦、なかに入れば「外」とか「ストリート」と見まがうほどの「ザ=外」が待ち受けています。
内部が中空になって抜けているのです。
「家なのに外!」なのです。
さて、この「外の効果」を助けてくれているものには、巨大なトップライトがあることは無論のことですが、それ以外の隠し味として「ヤレた内壁」があります。
この恐ろしく味わいのある木は、そもそも、どこのホームセンターでも売られている安価な合板(3×6版)に過ぎません。
それを購入して幅20cmに切断してゆき、次にそれをベビーサンダーを使いつつある特殊な方法で木の柔らかい部分だけを削り飛ばしてゆきます。
すると、木目の堅い部分だけが残ります。
残った木の表面には、水分(塗料)を吸う場所と吸わない場所がありますので、そこに、最後にフィニッシュとしての特殊塗装を施します。
するとこんな風合いに仕上がるという訳です。
この極度に忍耐のいる作業は、私たち建築設計事務所のスタッフと建築塾の塾生たちによって、2ヶ月間かけて仕上げられました。
本職の大工や塗装工にやってもらったら、一体、どれだけの労務費がかかったかわかりません……
遠目からの写真ではなかなかわかりませんが、このエイジング処理の壁に近づいてみますと、こんな荒々しい、それでいて味わいある表情で覆われていることがわかります。
汎用品としてカットされた工業製品の木は、多少の木目の違いこそあれど、非常に均質に並ぶことを自慢します。
いや、均質であることの「整頓された表情」を、現代の人達は望みたがります。
でも、そういう「清潔感」「整理感」にこそ、今の建築を貧しくしている ひとつの理由があると僕達は考えます。
木には、例えそれが板であっても、ひとつひとつに個性があります。
人がそれぞれに違った顔付きをし、違った生き方をしているのと同じことです。
ですから、今回、【TORUS】では「ひとつひとつの木の“素性”を露わにすること」で、この住宅空間を創ってくれることに関与する木たちに敬意を表したのです。
初めての前田アトリエは、なにか怪しいバーに来てしまったかのような怖い印象でした(笑)
前田さん、白石さんの服装と雰囲気からとても危険な香りが感じられました(笑)。
しかし動画を交えての説明に入るとそのイメージは一変し、とても誠実で真っ直ぐな人達だなぁと感じました。
ー クライアント
最初の案を目にしたとき、模型を持ち帰るほどに気に入りました。
気に入ったというのは、いい意味で私達の想像を超えていたデザインだったからです。
それでいて外観は複雑ではなくとてもシンプルに感じました。
ー クライアント
・上部と下部の分節
・街からの欠き込み
・内部と外部の関係
・テクスチャーの発明
これらがすべて相まって、本当の意味で家に住まうこと、家を作ることの豊かさを計画した結果として、この【TORUS】が誕生したといえます。
ー 前田
竣工までの時間はとても長く感じ、今振り返るとあっという間でした。
建築家と建てる場合、竣工まで自分達が参加しないといけない点が多いと思いますし、その都度、自分達の無知さを痛感しました。
初めて知ることも多く、アトリエの方達は勿論ですが施工会社の職人さん達ともお会いする機会も多く、また期間が長いため人間的にも少しは成長できたかなと思うと、人生でこれほど濃い時間はなかったと思います。
ー クライアント
日中は1Fの店舗にずっといますが、1年経った現在でも通りがかりの人がこちらに注目しているのを見掛けるととても満足ですし、それだけ目立つんだなぁと改めて実感します。
オンリーワンの住居で生活出来て、これほど凝った外観で、かつ目立つ建物であると同時に、ドッグランをも兼ねたドッグサロンは日本中捜してもないのではと思えるような店舗を経営しているという夢が叶いました。
私達は「建築家」に対しての知識0から入ったのですが、やはりまずは作品(建物)をたくさん見たほうがいいです。
見慣れてくるとその建築家さんの特徴というかスタイルが分かってきます。
気に入った作品を創るセンスも大事だと思いますが、やはり竣工までの期間はとにかく色々とやりとりがあると思いますので建築家さんのお人柄も、作風と同じくらい大事な要素だと思います。
と、いうか1番大事なことだと思います。
妥協はせず全て託せるような方と巡り合うまで頑張って欲しいです。
あとは、建築家さんにもよりますが「こだわり」が強いと思いますので自分達の譲れない「家への想い」は貫き通しつつ、「こだわり」も生かせるようなお家を建てて下さい。
「家を建てる」なんてことは人生に1度の方がほとんどだと思います。
その人生の大きなイベントをありふれたモノではなく宝にして下さい。
ー クライアント
※音が流れますので、音量にご注意ください。
家を設計するとは「形をデザインする」のではなく「空気を計画」することだと思います。
それは、魚が濁った水では生きられないように、人も濁った空気ではうまく生きられないのと同じことだと考えるからです。
もしも、あなたが、こうした家の建て方にご興味を持たれたならぜひご連絡ください。
そしてアトリエに遊びに来てください。
歓迎します。