建築家と建てる家 建築家との家づくり > 空間を設計する > CASE03
「自分が住みたい家がない」のと同時に
「自分が住みたい家がある」という理由も両軸であったので
建築家と家を建てる事を考えました。
ー クライアント
建築家一人の個人的な経験は小さなものです。
そんな、僕が持ち合わせるものだけで建築を決定してしまいたくない・・
常々、そんなことを思っています。
街を歩いていると、たまたま、ある石が目に留まりました。
こんな小さな石が自然からしか生み出されないように、建築も、人間が考えだすのではなく、何かに導かれるように生まれ出る形がないだろうかと思うことがよくあります。
そんなことを考えながら、何てことのないこの石は、いつしか僕の机の片隅に埋もれていきました。
でもこの石はいつの間にか僕の脳内に、次の建築の形を決定づけるインスピレーションを導き出す重要なトリガーとして組み込まれていたようです。
ー 前田
「家」はまさに「空母」としての存在にしたいと思っていました。
日常を「家」と「外」と分けたとき、「外」は仕事や人とのコミュニケーションなど社会生活を行う場所。
そして帰還する「家」は、その翌日にも行う活動の給油場所のような存在にしたく思っていました。
ー クライアント
建築家とはイレギュラーな敷地が大好きなものです。
この敷地は、
・西側半分が「道路と同じレベル」
・東側半分が「道路から4m下がったレベル」
という明確に分割された2つの(高さの)部分で構成されていました。
ここでのイレギュラーとは、決して悪い意味なのではなく、『敷地が個性ある顔を持っている』というふうに僕達は解釈します。
つまり、その敷地の「個性」を生かしてやる空間を提案すればいい訳でして、それが敷地を生かすことにも繋がります。
そこで思いついたのが、「(3m高い)上のレベルから、
『マッシブなメタルの塊が崖から飛び出している』
というイメージでした。
ー 前田
「崖から飛び出したメタルの塊」、そう閃くと様々な場面が想像されてくるようになりました。、
例えば、道路(高いレベル)からアプローチして玄関扉を開け、室内に入ると、突然、崖下へ向かって、下方に大空間が開ける!!
普通、吹き抜けは大抵、上に開かれます。
ところがこのMACHINE HEADでは、その逆なのです。
ここがミソです。
住む人は、まるで階下の舞台を見下ろしながら劇場の階段を一段一段降りるかのように、それがある種の儀式であるかのようにリビングに到達することになります。
そんな静寂で神聖なイメージがこの住宅の根となりました。
これはたまたま、クライアントが希望されていた「神聖な空間」ということとも合致しました。
また、崖からメタルの塊が飛び出しているのであれば、
リビングはその塊の下をガラスで囲ってしまえば、そこに配置できるのではないか、そうすればガラスで囲われたリビングは外部の庭とも連続して心地良くなるのでは……
といったことも次から次へと頭に浮かんできました。
実際に道路レベル(高いレベル)から見ると、左の写真のような感じです。
因みにこのメタルの材質ですが、光の当たり方によって、その時々で表情を変えてくれます。
銀色の時も、金色の時も、シルバーの時も、グレーの時もあります。
高さ一層分のメタルの塊が見えますが、これが崖下の街へ向かって崖から飛び出しています。
一方、崖下から見ると、メタルの塊が崖から飛び出している様子がわかります。
メタルの塊の下のガラスで囲われた部分がリビングになっています。
玄関から入るとドーッと下方に広がる空間の雰囲気を右端の黒い階段が助けてくれています。
前田さんの建築に対するモチベーションの高さと意識に共感しました。
きっと前田さんなら、自分の意図を理解して頂けるであろうという確信がありました。
クリエイティブの匂いが充満しているところに感動とワクワク、そして何か凄い面白いものが生まれそうな予感がありました。
ー クライアント
ちなみに、このメタルの塊のかたちは、ギターの“ペグ”から引用されました。
ペグは「糸を巻く」という指の動作に一番フィットするようデザインされた形です。
これを引用したのは、クライアントがギタリストであったからという事情もありますが、同時に僕は建築のかたちを決める時、自分の狭く個人的な経験(手癖)で決定してしまいたくない、という気持ちもあったからです。
僕の机の片隅に埋もれてしまっていた、あの「石」はこんなところで、僕のインスピレーションの引き金を引いたようです。
小さな石が自然からしか生み出されないように、建築も、人間の考えだけに縛られるのではなく、何かに導かれるように生まれ出る形がないだろうかという僕のアンテナが、ギターのペグに反応したんだと思います。
こうした“見立て”というものは、時として作り手である建築家が想像もしなかった空間・世界を垣間見させてくれます。
ギターの“ペグ”は、不整形なウニョウニョした形をしていますから、それを本気で建築に取り入れてみると、結果的にそこには沢山の「路地」みたいな味のあるスペースが誕生してきてくれるようにもなりました。
家というと、多くの場合、物体、造形をイメージすると思います。
「ソファーをここにおいて、キッチン周りはこんなな感じで〜」と、目にするものを想像してしまいがちですが、前田さんの家は空間を描くための物体、造形であることを強く感じます。
空間は広い、狭いで判断するものではなく「空間に生きる」ことを家という場所に用いて、そこ住まう人の存在を大事にしていることを住んでみて実感します。
まさに建築でありながら「人」を描いているんだなと思います。
ー クライアント
人生には、色々なトリガーがあると思います。
学校に入学、子供の誕生、仕事の成功など、人にとっての起点や分岐点にもなる出来事です。
アトリエとの出会いから竣工までは人生の大きなトリガーになったと思っています。
この体験があったから、今の自分も少なからず存在しています。
前田さんと家を建てるという意味を感じ、そこに住まう自分は、どんな施主よりも幸せなんだと感じています。
ー クライアント
「私が創る」といういつもの地点から一歩引いて見てみると、自分でも予想できなかったようなものが顔を出すことがあります。
MACHINE HEADは、一見、先鋭的なデザインに見えるかもしれませんが、それは僕たちが素直に、ギターのペグというものの教えに耳を傾けたからだということを知っていただきたいと思います。
ー 前田
土地の掘削から鉄骨立ち上がり、コンクリートが流し込まれ、外壁がはまり、電気がつながっていく間の、何かが生まれる瞬間までのカウントダウンがたまらなく楽しかったです。
また、施行が始まって以来、毎日のようにアトリエのスタッフから状況の報告を頂く事に感動しました。
「図面を引いて終了」ではないアトリエの姿勢に感動したことを覚えてます。
ー クライアント
「素敵な家に住みたい」のは、きっと誰もが共通する意見だとおもいます。
ただ、この「素敵な家」から、どれだけ具体的に住みたい家を自分で考えられるかが、建築家と家を建てられるかにつながると思います。
もちろん建築家とコミュニケーションをとりながら、最終形態である「家」を描く事も考えられますが、やはり最後は施主としての自分にかかってきます。
あと、建て売りを買うのとは違い、長い時間を建築家さんと共に過ごし「家」という完成形を目指して行きます。
ある種のチームワーク、そこには大きなリスペクトも必要です。
ものづくりの緊張と緩和の繰り返し、そこに辛さもあれば面白さもあるのが家を建てることだと思います。
ー クライアント
クライアントはギタリストであり、自宅に「音楽スタジオ」の併設を希望した。
ただし、このスタジオは「孤立する部屋」でなく、彼等の「日常生活」や外部の「自然」といつも親密であることが臨まれた。
今回は【崖地-敷地が道路から3M下がった場所にある】という特殊な条件を「デフォルメ」させる事が提案の要となった。
=プロセス1:「金属塊」
【道路面-3m】の場所の上にガルバリウム鋼板の「金属塊」を空に向かって浮かべる。
=プロセス2:【中】と【下】
「金属塊」の【中】をプライベートなスペース、「金属塊」の【下】をパブリックなスペースとして位置づける。また、「金属塊」の【中】と【下】は、環境・自然に対して、「閉じる」と「開く」の関係にもなる。
=プロセス3:マシンヘッド
「金属塊」のフォルムはギタリストの施主に因み、【ギター】のマシンヘッド(先端部の調弦用ペグ)から引用する。
=プロセス4:スリット
「金属塊」に、2本の切り込まれたスリットを用意する。
スリットは空からの光を室内に送り届けると共に、上階と下階との事件(=コミュニケーション)を発生させる。
また、スリットは、「金属塊」を迷路状に分割することにもなり、これによって各諸室は、周辺環境の風景へピクチャーウインドウとして開いてゆく。
=プロセス5:構造
MACHINE HEADの構造解析は、水平力をRC造に、垂直力をS造に持たせて成立している。
故に、「金属塊」を支持する(垂直力だけ受け持てばよい)100φのロッド柱は、極限まで「金属塊」の浮遊感を表現し得る
自動車など工業デザインは、この20~30年の間に随分と変化して来ました。
建築も同じです。
数多、デザインもやり尽くされてしまった感があります。
しかし、この家には、そんな殻を破って新しい物を作り出そうとするクリエイターの気概に溢れています。
嬉しいですね。
こうした斬新な建物は、何より建主の理解があってこそ実現します。
設計家も、そんな建主に励まされて、気持ち良くデザインをされた。
まさに施主と設計家のコラボレーション。そんな印象です。
※音が流れますので、音量にご注意ください。
家を設計するとは「形をデザインする」のではなく「空気を計画」することだと思います。
それは、魚が濁った水では生きられないように、人も濁った空気ではうまく生きられないのと同じことだと考えるからです。
もしも、あなたが、こうした家の建て方にご興味を持たれたならぜひご連絡ください。
そしてアトリエに遊びに来てください。
歓迎します。