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卒塾生インタビュー


長谷川 恵梨

設計演習コース・卒業設計コース 第4期 卒塾

長谷川 恵梨

  • 在塾期間:2009.4 - 2010.11
  • 入塾時:建築学科4年生
  • 現 在:(非公表)

『大学の物理的環境や"高得点"よりもずっと大事なこと』


 --- 長谷川さんが建築塾に入ったきっかけは何でしたか?
 長谷川 私が通っていた大学では、入学して一番始めにユング(心理学者)やハイデガー(哲学者)の思想、それに森田正馬(精神科医/心理学者)や増田友也先生の建築論を元に、精神病患者や子供の空間の捉え方についての授業があったんです。そういう学校にいたので、自然に心理学や哲学や子供の空間把握や人間の原初的空間というものはどういった空間か考えるようになりました。
 --- ちょっと普通の建築学科とは違う、面白い大学だったんですね。
 長谷川 はい。大学では、一日の半分以上は設計の授業があって、製図机も一人ずつ与えられたり、40人の学生に対して最低4、5人は先生がいました。他大学では週一回しか設計の授業がないとか、先生が来ない日もあるとかもよく聞くので、一般的にいえばすごく贅沢で環境のいい学校だったと思います。ですので、私も初めの頃は自分の大学に満足していたのですが、学年を重ねていくと徐々に不満も沸いてきたんです。

中でも一番引っ掛かったのは、設計演習になると講義(座学)の内容が全く活かされず、ロボットみたいに型にはまったような設計をさせられたことです。「梁(の寸法)はなんぼ以上じゃないとダメ」「庇(の寸法)はなんぼじゃないと」「ここは法規があるからダメ」・・・とかですね。そんな縛りに反発して、“まずは好きに自分が考えていることを空間化してやろう”と作品を作っていると、徐々に先生たちともぶつかるようになり、周りからも冷ややかな目線で見られるようになりまして…(笑)。
 --- 一言でいうと、学校にとってはやっかいな生徒だった、と。
 長谷川 ですね(笑)。そんなことがあって、どれだけ学校の設備や環境面で充実した学校で学んでいても、それが自分にとっては本当の意味で充実した環境ではないと感じるようになりました。そこからしばらくすると「もう環境を変えないと本当に駄目になってしまう!」と思うまでになり、学外で勉強できて、なおかつ精神や哲学、心理学といった視点から建築を考えられるところはないものか?と探すようになったんです。
そんな時に前田先生のウェブサイトを見つけて「自分の理想の先生だ!!」と瞬時に思い、入塾しようと決めました。
 --- 建築塾と大学や他の専門学校、職場での研修などとの違いはどんなところでしょうか?
 長谷川 建築塾では、授業の時間だけ机に向かっていわゆる「勉強」をしているのではなく、授業の時間かそれ以外ーー例えば宴(※授業後の飲み会)のようなーー時間かを問わず、常に生活の中で全身全霊で建築を学んでいる感覚でした。また、大学にはないいい意味での緊張感というか、ピン!とした空気のようなものが常に漂っていましたね。

最初にお話ししたような大学の環境と比べると物理的には贅沢な環境とは言えないかもしれませんが、分からないことがあれば前田先生やスタッフの皆さんに聞けばすぐに教えていただけたり、教科書に載っていないような話をたくさん吸収できる場なので、私にとっては最高の環境でした。
 --- ちなみに長谷川さんは建築塾のために兵庫から東京まで通っていましたよね。相当大変だったのでは?
 長谷川 そうですね。毎週大きな模型と一緒に長い時間をかけて行き来することや、高速バス代の負担など、都内や近郊から通う同期生と比べるとハンデはあったと思います。
でも、自分で決心して始めたことですし、それを理由に途中でギブアップするのは嫌だったので、例えばスタディ模型は小さくコンパクトに持ち運べるように分割してみたり、高速バスは一番安いところを探して早めに予約を取ったり、ポイントが貯まるバス会社を探したり・・・できることをやり尽くして頑張りました。大変でしたが、慣れてしまえば最初に思っていたほど「無理!」でもなかったです(笑)。
 --- 女子大生(当時)でもやってみれば何とかなる!と。地方在住で入塾を悩んでいる人にとっては勇気づけられる話ですね。

ところで長谷川さんは卒業設計コースの塾生でもありましたが、ご自分の卒業設計のなかで、一番厳しかったのはどんなことでしたか?また、建築塾はそれを乗り越えるのにどう役立ちましたか?
 長谷川 具体的にお話しすると猛烈に長くなるので(笑)ざっくりお話しすると、光が遠い遠い先に少し見えそうなテーマに立ち向かい、そのテーマの内容を空間化することにずっと苦しみました。そんな中建築塾では、先生をはじめスタッフの皆さんや卒塾生の先輩、同期生たちが「こんなのもあるよ」とか「長谷川さんが考えていることって実はこういうことなんじゃないの?」など私にアドバイスをしてくれる人がたくさんいたことで、何とか最後の作品を形にすることができました。
 --- その卒業設計の結果はどうでしたか?また、それに対する自分の思いは?
 長谷川 大学での評価という面での結果については、まあ悔しさとかいろいろありますが(苦笑)、私は自分の作った作品に誇りを持っています。

卒業設計で高い評価が出る作品はどういう作品かというのは入塾以前から自分なりに分析していて、それに沿ってやれば学校でそこそこの評価はもらえたはずだと思います。例えば<テーマはなるべく簡単に、単純で明快で具体的に>、<万人受けするよう、色彩は落ち着いた色合いに>、<空間構成は単純な空間をベースに過剰に反復させたりとか積層させたり>……等々ですね。
もちろん、そうやって作られた他の学生作品の中にも素晴らしい作品はあったと思いますが、私自身は卒業設計をいろいろある大学の課題のうちの一つとしてそれだけで終わらせるのではなく、これから建築家として人生を歩んでいくための基礎固めだと決めて、とにかく自分らしいものを作らないと後悔すると思ったので、自分の作品に対する学校での評価に関しては納得しています。

それに、学内での発表のときに何十人もの後輩が私の作品に群がってきてくれたり、学外の展示会での審査員の方が数ヶ月ほど立った後に私の作品についてTwitterでつぶやいて下さっていたのを発見したりしたときは、大学の先生から高い「点」をもらえることよりもずっと嬉しかったですね。
 --- たしかに、学校の先生達から形式的に高い評価をもらうより、色んな人からワイワイ言われる方が充実感はありますよね。
では、建築塾で一番印象に残っていることはなんですか?
 長谷川 やっぱり授業後の“宴”が最も印象に残っています。自然に本音で会話ができる場だったので。他にも、一回一回の授業や先生との会話やアトリエで過ごした日々は今でも鮮明に覚えていますし、塾で過ごした日々は全て強烈に印象に残っています。
 --- 長谷川さんが建築塾で得た一番大きなものは何でしょうか?
 長谷川 一番大きいのは、自分の建築の「根っこ」となるものを得られたことですね。自分がどんな人間になりたいか、どんな建築をつくりたいか。そして、自分の考えていることは決して間違いではないんだという自信、確信を持てたことです。自分を信じて突き進めば扉は開けるんだということを、具体的な学びを通して教えて頂いたと思っています。そういうものは、普通の大学では結局最後まで教えてもらえないものですよね。
 --- 長谷川さんから見た前田先生はどんな人ですか?
 長谷川 うーん・・・とても難しい質問です。そもそも先生を言葉で表現できる人のか?というのが疑問ですが(笑)。
最初の授業のときの印象は今でも覚えているんですが、事務所から塾の講義の部屋に入って来られたときに「うわぁぁぁー!!何や!でっかい黒船みたいな人やなー!」と鳥肌が立ちました。それが初めて先生と出会ったときの率直な感想ですね。その後の印象ももちろんたくさんありますが、私に取っては言葉で上手く表現できるような方ではないし、人によって感じ方も違うと思うので、ビビらずに(笑)まず会ってみたらいいのではないかと思います。で、「うわぁぁぁ−!!」ってなってください(笑)
 --- 最後に、過去の自分と同じような立場や思いをもつ後輩や、入塾を検討している方に一言お願いします。
 長谷川 真剣に建築を学んでいて、“自分を変えたい”とか、“(学ぶ)環境を変えたい”とか考えている人はたくさんいると思いますが、何かを変えるにはまずは「自分から動く!」という決断と行動が必要です。私自身、人に偉そうなことを言える人間だとは思っていませんが、あのとき建築塾に入塾したことだけに関しては自分を褒めてあげてもいいと今でも思います。頭の中で悩んでいるだけでは何も変わりませんよ!
 --- ありがとうございました。
 長谷川 ありがとうございました。

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