前田紀貞アトリエ

建築を造るとき、私たちは決まって、それが誕生してくる背景や根拠、理由というものを常に問い続けたいと考えます。
それは、哲学であり、芸術であり、文学であり、映画であり、演劇であり、舞踏であり、科学であり、仏教であり、数学であります。建築というものは、ひとつの「世界」を誕生させることですから、それがなんとなく雰囲気や好みで造られてしまうのでなく、いつも骨太で質実剛健なる「生まれてくる理由」によって祝福されていることが必要です。
そうした沢山の視点を体の中にゆっくりと染みこませてから建築に向かうからこそ、それは表層的なデザインでなく、そこに魂や息づかいが感じられるような「世界」になってくるのでありましょう。
恐らくこれは、建築家が嫌になるくらいゆっくりした時間のなかで、自分の人生を熟成させてゆく過程で、おのずと建築に込められてゆく何かなのです。